2011年4月
| S | M | T | W | T | F | S |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 2 | |||||
| 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
| 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
| 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
| 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
最近のエントリー
コンテンツ
- 2011年4月
- 2011年3月
- 2011年2月
- 2011年1月
- 2010年12月
- 2010年11月
- 2010年10月
- 2010年9月
- 2010年8月
- 2010年7月
- 2010年6月
- 2010年5月
- 2010年4月
- 2010年3月
- 2010年2月
- 2010年1月
- 2009年12月
- 2009年11月
- 2009年10月
- 2009年9月
- 2009年8月
- 2009年7月
- 2009年6月
- 2009年5月
- 2009年4月
- 2009年3月
- 2009年2月
- 2009年1月
- 2008年12月
- 2008年11月
- 2008年10月
- 2008年9月
- 2008年8月
- 2008年7月
- 2008年6月
- 2008年5月
- 2008年4月
- 2008年3月
- 2008年2月
- 2008年1月
- 2007年12月
- 2007年11月
- 2007年10月
- 2007年9月
- 2007年8月
- 2007年7月
- 2007年6月
- 2007年5月
- 2007年4月
- 2007年3月
- 2007年2月
- 2007年1月
スーダン情報
末娘が日曜の夜に宿題があると私に言います。
本読みです。
私は静かに末娘の本読みに耳を傾けます。
「かげおくり」って遊びをちいちゃんに教えてくれたのは、
出征する前の日、お父さんは、ちいちゃん、お兄ちゃん、
その帰り道、青い空を見上げてたお父さんが、つぶやきました。
「かげおくりのよくできそうな空だなあ」
「えっ、かげおくり」
と、お兄ちゃんがきき返しました。
「かげおくりって、なあに」
と、ちいちゃんもたずねました。
「とお、数える間、かげぼうしをじっと見つめるのさ。とお、
と、お父さんがせつめいしました。
「父さんや母さんが子どものときに、よく遊んだものさ」
「ね。今、みんなでやってみましょうよ」
と、お母さんが横から言いました。
ちいちゃんとお兄ちゃんを中にして、四人は手をつなぎました。
そして、みんなで、かげぼうしに目を落としました。
「まばたきしや、だめよ」
と、お母さんが注意しました。
「まばたきしないよ」
ちいちゃんとお兄ちゃんが、やくそくしました。
「ひとつう、ふたあつ、みいっつ」
と、お父さんが数えだしました。
「ようっつ、いつつう、むうっつ」
と、お母さんの声も重なりました。
「ななあつ、やあっつ、ここのつう」
ちいちゃんとお兄ちゃんも、いっしょに数えだしました。
「とお」
目の動きといっしょに、白い四つのかげぼうしが、
「すごうい」
と、お兄ちゃんが言いました。
「すごうい」
と、ちいちゃんも言いました。
「今日の記念写真だなあ」
と、お父さんが言いました。
「大きな記念写真だこと」
と、お母さんが言いました。
次の日、お父さんは、白いたすきをかたからななめにかけ、
「体の弱いお父さんまで、いくさに行かなけらばならないなんて」
お母さんがぽつんと言ったのが、
ちいちゃんとお兄ちゃんは、
ばんざいをしたかげおくり、
かた手をあげたかげおくり、
足を開いたかげおくり、
いろいろなかげを空に送りました。
けれど、いくさがはげしくなって、
この町の空にも、しょういだんやばくだんをつんだひこうきが、
そうです。
広い空は、楽しい所ではなく、とてもこわい所にかわりました。
夏のはじめのある夜、くうしゅうけいほうのサイレンで、
「さあ、急いで」
お母さんの声。
外に出ると、もう、赤い火が、あちこちに上がっていました。
お母さんは、ちいちゃんとお兄ちゃんを両手につないで、
風の強い日でした。
「こっちに火が回るぞ」
「川の方ににげるんだ」
だれかがさけんでいます。
風があつくなってきました。ほのおのうずが追いかけてきます。
「お兄ちゃん、はぐれちゃだめよ」
お兄ちゃんが転びました。足から血が出ています。
お母さんは、お兄ちゃんをおんぶしました。
「さあ、ちいちゃん、母さんとしっかり走るのよ」
けれど、たくさんの人に追いぬかれたり、ぶつかったりーーー、
ちいちゃんは、お母さんとはぐれました。
「お母ちゃん、お母ちゃん!」
ちいちゃんはさけびました。
そのとき、知らないおじさんが言いました。
「お母ちゃんは、後から来るよ」
そのおじさんは、ちいちゃんをだいて走ってくれました。
暗い橋の下に、たくさんの人が集まっていました。
ちいちゃんの目に、お母さんらしい人が見えました。
「お母ちゃん!」
と、ちいちゃんがさけぶと、おじさんは
「みつかったかい、よかった、よかった!」
と下ろしてくれました。
でも、その人は、お母さんではありませんでした。
ちいちゃんは、ひとりぼっちになりました。ちいちゃんは、
朝になりました。町の様子は、すっかりかわっています。
どこがどうなのかーーーー。
「ちいちゃんじゃないの?」
という声。ふり向くと、
「お母ちゃんは?お兄ちゃんは?」
と、おばさんがたずねました。ちいちゃんは、
「おうちのとこ」
「そう、おうちにもどっているのね。おばちゃん、
おばさんは、ちいちゃんの手をつないでくれました。
家は、やけ落ちてなくなっていました。
「ここがお兄ちゃんとあたしの部屋」
ちいちゃんがしゃがんでいると、
「お母ちゃんたち、ここに帰ってくるの」
ちいちゃんは、深くうなずきました。
「じゃあ、だいじょうぶだね。あのね、おばちゃんは、今から、
ちいちゃんは、また深くうなずきました。
その夜、ちいちゃんは、ざつのうの中に入れてあるほしいいを、
そして、こわれかかった暗いぼうくうごうの中で、ねむりました。
「お母ちゃんとお兄ちゃんは、きっと帰ってくるよ」
くもった朝が来て、昼がすぎ、また、暗い夜が来ました。
そして、こわれかかったぼうくうごうの中でねむりました。
明るい光が顔に当たって、目がさめました。
「まぶしいな」
ちいちゃんは、暑いような寒いような気がしました。
そのとき、
「かげおくりのよくできそうな空だなあ」
というお父さんの声が、青い空からふってきました。
「ね、今、みんなでやってみましょうよ」
というお母さんの声も、青い空からふってきました。
ちいちゃんは、ふらふらする足をふみしめて立ち上がると、
「ひとつう、ふたあつ、みいっつ」
いつの間にか、お父さんのひくい声が、
「ようっつ、いつつう、むうっつ」
お母さんの高い声も、それに重なって聞こえだしました。
「ななあつ、やあっつ、ここのつう」
お兄ちゃんのわらいそうな声も、重なってきました。
「とお!」
ちいちゃんが空を見上げると、青い空に、
「お父ちゃん!」
ちいちゃんはよびました。
「お母ちゃん!お兄ちゃん!」
そのとき、体がすうっとすきとおって、
一面の空の色。ちいちゃんは、空色の花畑の中に立っていました。
「きっと、ここ、空の上よ!」
と、ちいちゃんは思いました。
「ああ、あたし、おなかがすいて軽くなったから、ういたのね」
そのとき、向こうから、お父さんとお母さんとお兄ちゃんが、
「なあんだ、みんな、こんな所にいたから、来なかったのね!」
ちいちゃんは、きらきらわらいだしました。わらいながら、
夏のはじめのある朝、こうして、小さな女の子の命が、
それから、何十年。
町には、前よりもいっぱい家がたっています。
ちいちゃんが一人でかげおくりをした所は、
青い空の下、今日も、
「あまんきみこ作、光村図書 国語三下」
私は、末娘のたどたどしい本読みでも、
末娘にいまから私が、この話を読んで聞かせます。
川原尚行


